八月踊り

八月祭と八月踊り

 旧暦八月に新穀を供え先祖を祀り,豊作を祈る祭りをいう。内地でいう盆踊りといったところだろうか。この考祖祭はアラセツ・シバサシ・ドゥンガに分かれており,これらを総称して「ミハチガチ(ミハチガツ)」「八月三節」ともいう。

 昔,奄美全域で伝染病が広がり,それに加えて天災や地震が起こり,目も当てられないものだったという。そこで沖縄の王に相談したところ,祭りにより祟りを解くようにということからこの考祖祭が始まったとされている。

 つまり,元来は別々であった「自然の神々に豊作を祈る祭り」と「先祖の霊を慰める儀式」がいつの間にか合体してできたのが,この「ミハチガチ」といえるであろう。

 また,このときに踊るのが八月踊りで,二日かけて集落中のすべての家の庭先で踊り回る「ヤーマワリ」,村の守護神を祀る家(トネヤ)の前の広場(ミャー)で円になって踊る「ミャー踊り」,集団で行列を作って踊りながら行進する「ヨーハレ(世祓い)」などがある。


アラセツ・アラセチ(新節)

 八月の初丙(または丁)の日(マツリビ)を中心にその前夜から三日間行う。

八月丙の日をもってこの年の収穫を一切終わり次の年に備える=節を新たにする意味がある。丙(ヒノエ)・丁(ヒノト)をまとめてヒネというが,これは日の根という意味があり,太陽神に今年の豊穣の感謝と次の五穀豊穣を祈るのが,この祭りである。神と同時に先祖を迎える意味もあり,夕方に墓参りをしたり祭壇や仏壇にお供えをする。夜になるとミャー踊りを行い,ヤーマワリをする。


シバサシ(柴差・柴挿)

 八月の初壬(または癸)の日(マツリビ)を中心にその前夜から三日間行う。壬(ミズノエ)・癸(ミズノト)をまとめてミズノネといい,水の根つまり水の神様の信仰からきている。水の神をもって万物の汚れや穢れを祓い清めるのである。この日はアラセツで迎え入れられなかった神が来るので,御馳走を作ったり祭壇を作ったりしない。煙草などの煙を噴かし,これらの神を家に入れないようにした。また厄除けのために屋根の四隅にススキを挿した。また,別の集落では改葬によい日とされ,墓を掘り起こして改葬したりシーバ(椎の葉)を親戚中の墓に挿して回り拝んだという。アラセツ同様にミャー踊り,ヤーマワリを行い,その後「ヨーハレ」でトネヤに移動しミャー踊りをする。


ドンガ(嫩芽)

甲子の日(マツリビ)を中心にその前夜から三日間行う。シバサシに改葬しなかった集落ではこの日に改葬したり,シーバ(椎の葉)やヒノキバ(檜の葉)を墓に供えた。シバサシに改葬を行った集落では墓参りをし,帰ってお祝いをする。ドンガの翌日は何もしてはいけないという。またこのドンガはネズミをまつる日だともいわれている。八月踊りはミャー踊りのみである。


 昔はこのように細やかなしきたりがあったが,今ではアラセツとシバサシにそれぞれ集落のいくつかの広場で二時間ほど踊り,シバサシの最後に学校から公民館までヨーハレで踊って「ムドゥシ」で閉める,といった程度に簡素化されている。ドンガには集落放送がかかるが,特にこれといって何もしない。



「八月歌」とは

 奄美での歌はそれを歌う人たちによって大きく三つに分類される。一つは神事を行うノロ・ユタと呼ばれる人たちに歌われる「神歌」。二つめは子供たちに歌われてきた「童歌」。そして三つめが一般のシマンチュによって歌い継がれてきた「民謡」である。

 この民謡のうち,年中行事の一つであるミハチガツ(旧暦八月に行われる八月祭り=上記参照),豊年祭の八月踊りで歌われるものを「八月歌」という。一般の「島唄」とは区別されている。

 歌詞は島唄同様八・八・八・六形式であるが,八月歌は三味線を使わず,専らチヂン(太鼓)だけでリズムを取る。このリズムも「島唄」のトン・トン・トーンという一つのリズムではなく,曲によって様々なリズム・パターンがある。ミャー踊りやヤーマワリでは,中心にチヂンを叩く人たちが小さな円をつくり,その周りを人々が取り囲んで大きな円をつくって踊る。私も八月踊りでチヂンを叩かせてもらったことがあるが,チヂンを叩きながら同時に体と足で踊るので,なかなかにハードだ。

 この八月歌も島唄同様,各集落によって歌詞が違う。そしてさらに踊り方も違う。そこで集落の踊りを保存しようと取り組んでいる集落も少なくない。

 私の住んでいる集落では,歌と三味線が唯一の娯楽で,意味もわからず歌詞を覚え,女性にもてるからと三味線をはじめたという人もいたそうだ。ヨーハレで移動する際には,徐々に若い男女が行列を離れて愛を語り合ったそうである。先程述べたように今ではかなり簡素化された祭りとなってしまったが,このように行事について詳しく調べてみると,集落の慣習や風習,個人の考え方や神と人と命の関わりを知ることができておもしろい。

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